2014年10月18日土曜日

「刑法、刑事訴訟法と福島原発事故」

「刑法、刑事訴訟法と福島原発事故」

 僕は早稲田大学法学部在学中に「刑事訴訟法」のゼミに入っていました。ゼミの先生は熊本県の水俣病訴訟の際の熊本地方検察庁の次席検事だった先生です。ゼミでは先生から、公害訴訟の際の刑事責任追及についていろいろと教わりました。僕は石牟礼道子さんの「苦海浄土」や写真家のユージン=スミスの水俣病患者の写真を読んだり、見たりして、水俣病について詳しく、勉強しました。

 2011年の311日の東日本大震災に伴い起きた福島原発事故に関しても、水俣病訴訟を想起して、考えている方もいるかと思います。僕は2014年の3月から、文京区立図書館所蔵の、東日本大震災関連の書籍を詳しく調べてきました。原発事故についての本も沢山あります。僕も多くの本を読みました。

 本を読んでみると、東電の刑事責任(業務上過失致死傷)を問うている本も多くあります。 刑法、刑事訴訟法的視点から今回の福島原発事故を考えていくのも一つの視点だと思っています。

 東京電力に対する刑事責任を追及していく。東電の業務上過失致死傷の刑事責任を追及していく。僕のゼミの先生だったら、多分、そんなことをゼミの講義でしていたと思います。

 国はすでに原発再稼働は決めているようですが、福島県の原発事故で被害を被った方々に対しての東京電力の刑事責任、業務上過失致死傷の刑事責任の追及は全く終わっていません。刑法、刑事訴訟法的視点から、福島原発事故を考えていくことは今後も、続いていくでしょう。

 東電の旧経営陣3人を無作為(くじで)に選ばれた11人の一般市民からなる検察審査会が二度にわたり「起訴すべき」と議決し、検察官役弁護士が2016年2月29日に強制的に起訴し、2017年6月から東電刑事裁判が東京地方裁判所で行われていました。(裁判長、永渕健一裁判長)。


 東京地方裁判所は霞ヶ関にあります。

 


 


 東京地方裁判所の104号法廷で裁判が行われていたようです。

 


  福島原発事故とは、判決要旨によると、2011年3月11日、2時46分の三陸沖を震源とする国内観測史上最大のマグニチュード9の東日本大震災に伴い起きた巨大津波によって、福島第1原発の非常用電源などがある10m盤にあるタービン建屋が浸水。非常用ディーゼル発電機や電源盤、蓄電池の多くが被水し電源のほとんどを喪失。炉心を冷やす機能を喪失した結果、圧力容器内の水位が低下し燃料が露出した状態となり、燃料及び被覆管の材料が化学反応を起こして大量の水素ガスが発生するとともに被覆管の溶融により燃料から大量の放射性物質が放出される。放射性物質が圧力容器から格納容器内に、さらに原子炉建屋内に漏えいして蓄積。1号機では12日午後3時36分頃、3号機では14日午前11時1分頃、それぞれ何らの原因で原子炉建屋内の水素ガスに着火して原子炉建屋が爆発。2号機では1号機の原子炉建屋で爆発した際の衝撃により原子炉建屋上部のブローアウトパネルが外れて隙間ができ、この隙間から水素ガス及び放射性物質が放出された。4号機では、3号機の格納容器ベントを行った際、3号機で発生していた水素ガスの一部が配管を通じて4号機の原子炉建屋内に流れ込んで蓄積し、15日午前6時14分頃、何らかの原因でこれに着火して原子炉建屋が爆発した事故のことです。

 東電の問われている業務上過失致死傷の罪は、原発事故が原因で長期間の避難を余儀なくされた福島県大熊町の双葉病院と系列の施設にいた44人が避難の過程で死亡したことなどが罪に問われているようです。

  業務上過失致死傷罪が成立するためには過失により人を死傷させたとして人の死傷の結果の回避に向けた注意義務、すなわち結果回避義務を課す前提として人の死傷の結果及びその結果に至る因果の経過の基本部分について予見可能性があったと合理的な疑いを超えて認められることが必要であるそうです。

 東電刑事裁判で裁判の争点になっているのは、福島第一原発を襲った津波(東日本大震災の津波の浸水高は11.5155メートルであった)が予見可能だったのかが争点になっているようです。

 検察官役指定弁護士の側は長期評価などの一定の情報収集義務を尽くしていれば津波は予見可能だった。10メートル盤を超える津波が襲来することを予見できたのだから、タービン建屋などが浸水し、炉心損傷などによるガス爆発などの事故が発生することのないように結果回避のための適切な措置を講じる必要があった。適切な措置とは、東電は防潮堤を作る、原子炉を冷やす非常用電源を高台に移す、建屋の防水対策をするなどのことで、これらの津波対策をしておかなければならず、津波対策が完了するまでは原発を停止しておかなければばらず、東電の業務上過失致死傷罪の刑事責任が問われることになると主張しているようです。

 一方の東電弁護側は、指定弁護士の主張する結果回避措置を法的に義務付けるには一般的抽象的な危惧感ないし不安感では足りないのはもちろん、信頼性および成熟性の認められる知見に基づく具体的根拠を伴う予見可能性が必要である。長期評価は具体的根拠を示しておらず結果回避措置を義務付けるに足りる信頼性、成熟性はなく、東電設計による計算結果どおりの津波が襲来する予見可能性を生じさせるものではなかったと主張しているようです。

 裁判官は判決要旨で、福島原発事故を回避するためには原発の運転停止措置を講じるほかなかった、事故の結果回避義務は2011年3月初旬までに原発の運転停止をすることだったと述べて、事故の結果回避措置は原発の運転停止だとしています。その他の防潮堤の建設、非常用電源の高台への移転などの結果回避措置は否定しているようです。

 原発の安全性に関しては、裁判官は、判決要旨で、「少なくとも本件事故発生前までの時点で賛否はあったにせよ、当時の社会通念の反映であるはずの法令上の規制やそれを受けた国の指針、審査基準などの在り方は絶対的安全性の確保までを前提にしていなかったと見ざるを得ない」と述べて、原発の絶対的安全性を否定しています。

 長期評価とは阪神淡路大震災を契機に19957月に作られた地震調査研究推進本部(推本)の20027月に公表されたもので、今後数十年内にどの程度の確率でどれくらいの規模の地震が起きるかを予測するものです。三陸沖から房総沖の日本海溝沿いで、過去400年間に津波地震のなかった福島沖、茨城沖でもマグニチュード8.2前後の明治三陸地震と同様の津波地震が今後30年以内に20%の確率で起きる可能性があるとの見解で、長期評価が信頼出来るものかも検証されました。

 2006年には原発の耐震審査指針が改定され、電力会社は原発が新指針に適合しているか確認を求められたようです(耐震バックチェック=耐震安全性評価)。東電では東電設計に津波水位計算を委託したところ、明治三陸地震の波源モデルを海溝寄り領域に設定したパラメータスタディにより、2008年3月、耐震バックチェックの津波評価に長期評価を反映すると福島第一原発で最大15.7メートルの津波水位となる計算結果を得て対策を検討し始めたが、2008年7月31日、当時副社長であった武藤被告が、検討を進めていた津波対策を先送りし、長期評価の扱いについて土木学会に審議を依頼するよう指示し、2009年までに終わるとした耐震バックチェック(耐震安全性評価)を行わなかったようです。

 裁判では多くの証人の方が法廷で証言をしたようです。推本の地震学者の島崎邦彦氏、推本の長期評価部会長である長期評価部会のメンバーで歴史地震学者の都司嘉宣氏らが証言をしたようです。地震学者の島崎邦彦氏は、「福島県沖の津波地震は十分注意すべき確率だった」「内閣府の中央防災会議で福島県沖の津波地震を想定から外された。首都直下地震は想定したのに福島沖を外したのは、原子力に関係した配慮ではないか。首都直下地震と同じように扱えば原発事故を防げた」と証言しているようです。東京地方裁判所の法廷で、ある程度信用出来る証人の方々が証言をしたようです。

(世界201810月号、判決要旨ほかより)

 2018年11月14日の裁判で、証拠調べは終了し、2018年12月26日の論告求刑で検察官役指定弁護士は被告に対して業務上過失致死傷罪の法定刑で上限の禁固5年を求刑しました。

2019年3月12日に弁護側が最終弁論をして無罪を主張し結審しました。

判決は2019年9月19日に言い渡されました。

9月19日の判決では、長期評価の信頼性は否定され、原発運転停止の義務を課すほどの「大津波の予見可能性は認められない」として東電旧経営陣、被告3人全員に無罪の判決が言い渡されました。

 2019年9月30日に、検察官役指定弁護士側が判決を不服として東京高等裁判所に控訴しました。

2020年9月11日に控訴の理由をまとめた控訴趣意書が東京高等裁判所に提出されました

東電刑事裁判の論告と判決要旨、控訴趣意書はこちら→東電刑事裁判の論告と判決要旨、控訴趣意書。

 司法とは権力から独立した機関だと思います。権力を監視するとともに、権力の暴走に歯止めをかける役割もあります。

 刑法、刑事訴訟法的視点から東電の業務上過失致死傷の刑事責任を追及していくことはとても大事なことだと思います。

 
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